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音楽産業でDRMが違法ダウンロードに与える影響についての論文を読んでみた(前編)【続・DRM論争】

   

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photo credit: desbyrnephotos via photopin cc

歌ってみたみたいな気軽なノリのタイトルにしましたが、中身は結構マジメです。
ぼくが普段読んでるMarketing Scienceという海外の論文雑誌にたまたま音楽産業の話が載っていたので、簡単に要点を紹介したりしながらいろいろ書いていこうかと思います。論文はVernik, Purohit, and Desai (2011) ”Music Downloads and the Flip Side of Digital Rights Management” です。文献の詳細は最後に書きます。
以前『DRM廃止が音楽の売上を10%伸ばす』TorrentFreak翻訳記事というのを書きましたけど、それの続編といった感じでしょうか。前回の記事で「つまるところDRMってクソじゃね?」という話に関しての概略を書きましたが、今回の論文はかなり数理的に分析されているので、もう少し深い部分まで掘り進めた話ができるような気がします。
丸ごと翻訳だとちょっと最近のコンテンツ丸パクリのキュレーション感が否めなくて嫌なので、思いつく限りはいろいろと綴るつもりでいます。
 

DRMに関する話

 
論文によれば、現在のDRMの主な問題として挙げられるのは以下の2点。
 
1 コピーを難しくするためにDRMをより高度で複雑なものにするそのコストは、結果的に違法行為をするつもりのない一般ユーザが負うことになる
 
簡単に言うと「DRMの研究開発コストなどが最終的に音楽の販売価格に上乗せされるので、結局は善良ユーザが余分にお金を払うことになる」という話です。考えてみると実社会において警察による治安維持や刑務所の運営が税金で賄われているのと同じ話なんですが、そう考えると、なんだか音楽を楽しむための税金、音楽業界を支えるためのピンハネみたいな話ですね。
課税されてもそのベネフィットが本人たちに返ってこないとなればそれは単なる価格の上昇と同義なので、まあ需要が減るのは理解できるような気がします。
 
2 (現状違法コピーの手法が存在し、散々出回っている以上、)いくらDRMを厳しくしたところで、そもそも違法コピーで楽しんでいる連中は影響を受けるはずがない。つまり、善良なユーザだけがDRMの制限や面倒ごとに苦しむことになる
 
簡単にまとめると「いや違法コピーにはDRMなんてついてないんだから、正規品にDRMつけたところで結局善良ユーザが音楽を楽しむためのユーザビリティが下がるだけじゃね?」という話。思えばCCCD(コピーコントロールCD)が世に出回った当初、買ったCDをパソコンで聴こうとしてレーベルゲートの認証やら何やら面倒なことになって「なんだこれマジでクソだな」とか言いまくってました。懐かしい。
これもまあその通りなんですが、現状ではDRMがあっても違法コピーを行う手段があるから違法ユーザはDRMなしのコピー品を楽しむことができますが、本当にコピーできなくなったらこれは通用しないような気もします。(まあ再生してるのを高音質で録音すればそれなりのクオリティのコピーなんて最悪いくらでもできるんですけどね)
 
こういうパラドックスの指摘は読んでて楽しいですね。
 
 

分析結果から

分析の内容自体は結構数理的なので詳しくは省いて、分析結果だけを簡単に紹介する形にします。
 
1 DRMがある程度面倒で複雑なシステムへと高度化すると、それまで合法的に購買していたユーザの一部がDRMのついていない違法DLへと移行する
 
違法DLを防ぐためのDRMが結果的にこういう事態を招くんだとしたら、それはなかなかのパラドックスで皮肉ですね。DRMが面倒になっても善良ユーザは苦しみながらも我慢して使用し続けていたけれども、あまりにもメチャクチャやるようになったらついに愛想が尽きて逃げていってしまう、そんな感じでしょうか。
 
2 違法DLは単純な「DRMが面倒だから」などの理由だけで起きているわけではなく、低価格(というかタダ)での利用に対して単純にベネフィットを感じて利用する場合も多い
 
まあこれに関しては普通のことといいますか、読み手にもスムーズに受け入れられる結果なんじゃないかと思います。そもそもが、市場原理における需要と供給の話でいうと、「0円で聴ける」からこそ違法DLやらYouTubeやらで聴いているけど、いざそれが1曲150円になったら「いや別にお金出してまで買おうと思わないし…」という人が出てくるのは、(あくまで市場原理としては)自然なことです。
そういった意味で、違法ダウンロードの回数は確かに被害総額にはなり得るでしょうが、仮にあらゆる違法DLやストリーミングが全て不可能になった世界があったとしても、被害額全てが売上として企業に入るというのは全くの誤認だと思います。正直なところ、普通に売ってる商品に対して、「(違法な手段を利用すれば)タダで手に入るから聴いてるだけであって有料ならいらない」なんてのは純粋に窃盗だと思いますけどね。
 
3 DRMがあるかないかに関わらず、とにかく違法DLは存在する。問題はDRMが実際に違法DLの減少に貢献できているかどうか
 
論文中の分析では、ダウンロード販売におけるDRMの撤廃が引き起こす影響として、一点「違法コピーの技術的な困難がなくなる」ことを指摘しています。まあ当たり前ですね。ファイルのコピペとかファイル自体そのままのアップロードでコピーができちゃうわけですからね。しかし本当に面白いのはそのあとの話で、DRMの撤廃が引き起こす影響として、仮に違法コピーが容易になったとしても、それでもなお「違法ダウンロードが減少」するとしています。これに関してはにわかには信じがたいものがありますね。(ただちょっとこの辺りは数理的な仮定が結構強いので計算みると「ほんとかよ…」という部分もあります)
しかし、強調すべき点としては「DRMがついている場合には、正規品はコピー品に比べて自由度が低いことから商品としての魅力が減少する」、その一方で、「DRMが撤廃されると、正規品とコピー品の違いが完全に価格だけとなるため、商品としての魅力は高まる。(その代わり、人々は価格設定に敏感になる)」という部分ですね。これまでP2Pをはじめとした違法ダウンロード系のファイルって音質やらウィルスやら色々と問題はあったんですが、なんかもう最近はもはやそういうののない純粋な「音楽をみんなで楽しむためにめっちゃ音質のいい自慢のアルバムをこっそり交換し合うコミュニティ」みたいなのとかもあるみたいですね。人づての噂なのでよく知りませんが…。
 
論文中では、DRMの理想的な形として「正規ユーザに負担がかからず、違法DLユーザにうまいこと負担がいくシステム」について言及していますが、そんなもん存在してたらとっくの昔に実装してんだろと思ってしまいます。しかしながら、この分析によると「たとえ正規ユーザに負担がかからず〜という理想的なDRMが存在し得たとしても、それでもなおDRMは撤廃したほうがいい」というおいおいマジかよという計算結果が出ています。
 
でも実はこれ、考えてみればその通りで、(数式が流し読みなのでぼくの推測も入っていますが、)DRMで正規ユーザに負担がかからないということは、正規ユーザにとってそれはもはやDRMを撤廃したのと同じことです。(正規で買えば負担がかからない=正規で購入すれば自由に他のデバイスでも再生できるし自由にCDに焼いて楽しむこともできる=DRMがついてないようなもん)
ということは上で書いた通り、正規ユーザにとってはDRM付きの正規品もコピー品も、差が価格だけになるわけです。つまり消費者は価格設定に今までより敏感になります。しかし販売側はといえば、違法ユーザのみに負担がかかるような素晴らしいDRMを開発するコストが利益を圧迫する形となり、下手に価格を下げることができなくなる。その結果として正規ユーザまでもが、タダで手に入る違法DLに流出してしまう可能性が考えられるという流れだと思います。
 
ちゃんとした数理的な計算過程と論理展開は恐らくこの論文のミソのところなので紹介しません。
 
また、文中に「DRMが撤廃された瞬間にダウンロード販売のメリットが完全にCD販売を凌駕する」という記述があるんですが、これに関しては日本では全く当てはまらないと思います。その辺の話はSpotifyに関して書いたSpotifyのジャパン・パッシングに見る日本の音楽業界の話 あたりに絡んでくる話だと思いますが、一文で要約すると「ほとんどの場合、
日本の音楽産業は今や所有欲と強く結びついてるから単純に低価格で音楽が手に入るだけでは意味がない」ということです。というか、逆にいうと、その「所有欲」を刺激するコレクションとしての音楽であるからこそ、現状の日本の音楽産業は違法ダウンロードに潰されずになんとか産業として維持できているという可能性も考えられると思います。
 
本文中に違法ダウンロードを行う際の負担として「検索コスト」という言葉が出てくるのが個人的には結構気になります。今なんてGoogleの検索バーにアーティスト名と曲名いれただけで後ろに「 mp3」だの「rar」だのがサジェストされるぐらいの世界なのに、検索コストってそこまで負担になるもんなのかな、という感じはしてしまいます。
実際のところiTMSでアルバム探すのにも検索は結構面倒ですからね。あそこ検索しづらいし。
 
この論文では分析にあたっての仮定として「違法ダウンロードを行う際には罪の意識を感じる」というのがあるんですが、正直なところ、まともに買った人が「マジかよ!?買ったの!?」みたいに言われる世の中なので。もはやそれもどうかなあという感じもあります。
 
ということで、ここまでで論文を半分読んだ感想やら諸々です。半ページ読むごとに書き進めています。
思いのほか長い論文だったので、前後半にわけるか、次回がもしあれば結論編にしたいと思います。
 

引用文献

Vernik, Purohit, and Desai: “Music Downloads and the Flip Side of DRM”, Marketing Science 30(6), pp. 1011-1027, INFORMS
Music Downloads and the Flip Side of DRM Protection by Dinah Cohen-Vernik, Debu Purohit, Preyas S. Desai :: SSRN
2011年に掲載された論文なので、最新のトレンド(ストリーミング配信が人気を博している話など)は分析には反映されていません。逆に、そのあたりをしっかり反映した今後の研究の動向が楽しみです。
 
個人的には音楽よりKindleのあの面倒なDRMをなんとかしてほしいんですけどね…
 
 


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