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Spotifyのジャパン・パッシングに見る日本の音楽業界の話

      2014/09/23


 
こういう記事は前から書きたいなとは思っていたんですが、散々いろんなところで議論されてるなかで今さらボクが書くことでもないかなーと思って書いていませんでした。あと月なみに音楽業界をバッシングして終わる記事になりそうだったし。
そんななか、書こうと思い立ったきっかけはWIRED JAPANのウェブにあがった記事『いまだに全音楽の85%がCDで購入される、不思議な日本』(2014/04/22)でした。
みなさんがわかりきっていることを、あえて長ったらしく言語化したいというのが本記事の目的です。
 


01 はじめに

音楽業界に限った話ではなく、日本人は変化を嫌う保守的な国民性だと個人的には考えています。
まあ一方で若い層は意外と変わってきているようにも思いますけどね。
初めはそういった「日本人の国民性」としての保守性がビジネスモデルの転換を阻害しているんだろうと思っていました。しかしながら、この記事を書いているうちに意見がまとまってきて、そうじゃないんじゃないかという気がしてきました。ゆっくり説明してゆきたいと思います。
 
まず、ボク自身は数年前から、特に何も考えずに「Spotifyって結構早く日本に入ってくるんじゃないかなー」ぐらいに思っていました。
というのも日本でも音楽配信がそれなりに普及してきて、その流れに乗って一気に普及させようとしてくるんじゃないかなあぐらいに。
 
詳しくは後述しますが、ぼくは今では「Spotifyは音楽の映画館だ」というように認識しています。別に意味はわからなくていいです。
とはいうものの一向に日本に入ってこない。ワクワクしながら待ってるのに。
そこで、ちょっといろいろと考えてみようと思ったわけです。
 


02 結局Spotifyのビジネスモデルでアーティストは儲かるのか

最初に浮かんでくるのはやはりこの疑問です。
これが証明されない限りSpotifyが日本で採用されることは永遠にありえないわけです。
しかしながら、Spotifyのビジネスモデルは(はっきりとは公開されてはいませんが)、どうも「聴かれれば聴かれるほどお金が入る」ようなシステムになっているようだということが何となく見て取れるわけです。すると、たとえ一度の再生で入るお金が雀の涙みたいな額だとしても、「【多くの人に】【何度も】【長い期間にわたって】聴かれる楽曲」であればあるほど、「長期間にわたる安定的な収益性を担保できる」ということが想像できます。
だからこそぼくは「メジャーの有名なアーティストほど参入したがるんじゃないか」と思っていたわけです。たとえ発売したのが10年前の曲でも、わざわざCDを再発するようなコストをかけずとも、リスナーが再生ボタンを押すだけで金銭が入ってくるというのは、非常に効率的であると同時に、全ての楽曲をずっと『商品』として扱えるという面でもアーティストからしたビジネスとしては正しいと感じていたのです。
所有権を持っている以上あたりまえといえば当たり前なのですが、10年前に1,000円で買ったCDに収録されている曲は、いつ聞いてもいいのです。これは本も映画もゲームソフトも同じことです。プレイするたびにお金の入るゲームセンターや映画館とは違うわけです。「Spotifyは音楽の映画館」と表現したのは、再生するたびに金銭が入るというビジネスモデルを他のものに当てはめただけの陳腐な表現です。…期待させてごめんね。
 


03 音楽業界にとっての商品は本当に”音楽”なのか

 
 

ジャニーズやアイドルがオリコンの年間ランキング上位を独占している状況をネタに『日本の音楽は終わった』とネット上で話題になることはもはや定番となりましたし、友達同士でMステやCDTVを話題に盛り上がるなんて場面が激減したのは多くの人が実感していることだと思います。
Spotifyが日本でも普及するために必要な2つの要素

 
 
これは一時期ぼくも言っていた記憶があります。しかしながら、今思い返すと本当に悪いのはそこではないんじゃないかと思うわけです。
 
CDの売り方を見ればどう売りたいのかは想像がつきますし、みなさんもだいたい分かってることだろうと思います。こういう話をするとAKB商法ばかりが取り沙汰されますが、実際EXILEなんかのCD特典もかなりエグいビジネスを展開していると聞きます。特典込み「17種類の販売」や「EXILE TRIBEサーキット」など結構凄まじかったみたいですね。詳しくはググってください。
同じ人が自分で所有するために複数枚のCDを買っている時点で、上のWIREDの記事を引用するなら
 
 

日本でCDの販売がまだ盛んである理由のひとつに、「収集」(コレクション)を好む文化がある。
『いまだに全音楽の85%がCDで購入される、不思議な日本』

 
 
これなのです。
CDの購入に対して、音楽を購入する以上の「何か」を求めている、また販売側もそれを狙ってCDを販売している。もはや「CDにおける本当の”商品”は音楽ではない!」とさえ言われても仕方のない、そんな現状なのです。
 
それを踏まえてSpotifyに話を戻すと、この記事で一番言いたいのは「Spotifyで収益をあげるためには日本の単純なCD売上枚数は全く参考にならない」ということです。Spotifyは音楽を聞いたかどうかが収益性を決める全てであり、たとえCDを1枚買った人でも100枚買った人でも、Spotify上では「同じ1曲を聞いた時にカウントされる再生回数は1回でしかない」のであります。純粋に音楽を求めていない限りSpotifyで収益につなげることは難しい、それこそがSpotifyの参入を妨げる要因なのではないでしょうか。
 
先の記事においては…
 
 

日本の音楽業界には一般に「保護主義的なビジネス風土」があり、業界はデジタル販売に懐疑的だ。
『いまだに全音楽の85%がCDで購入される、不思議な日本』

 
 
と表現されていますが、ぼくとしてはそもそも「デジタル販売に懐疑的」なのではなく、デジタル販売では今のビジネスモデルを展開することができず、収益を現状と同レベルに維持することができないからこそデジタル販売への移行にこれほどまでに腰が重かったのではないかと考えています。本当に儲かるニオイがしているのであれば、これほどまでにボロボロになった音楽業界が積極的に移行していかないはずがありません。
 


04 サービスとしての魅力

これはまさしくSpotify自体をSNS化できることだと思います。
ユーザが作ったプレイリストで音楽を聞くことに関して、従来ならそのプレイリストを聞くためには中身の楽曲を全て「購入」する必要があり、リスナーとしても非常にコストが高かった。これまでこういった形で誰かがまとめてくれた音楽を聞くためには「フリーで公開されているDJミックス」だとか「誰かが勝手に焼いたCD-Rをもらう」のようにグレーゾーン(というかブラック)な方法で、アーティストに収益の入らない形でのリリース品を楽しむしかなかったわけです。
しかしながら、Spotifyでは全てが定額制であるため、あるテーマに沿ったオリジナルのプレイリストなどを交換し合える、これが個人的には最高に楽しいです。
 
先のブログ記事がぼくが考えていた疑問を言語化してくださっていました。
 
 

Spotifyの普及が進むことで音楽が身近になることは間違いないと思うのですが、それが本当にCDの購入につながるのか…。Spotifyで好きな音楽を聴いて満足した後に、あえてCDを買う人が一体どれくらいいるのか?(アーティストの売上に貢献したい!とCDを買う方も若干はいるかとは思いますが)
Spotifyが日本でも普及するために必要な2つの要素

 
 
これは全くその通りで、ぼくとしても「そんなやつどれだけいるんだよ」と思っていました。みんながみんなアーティストに感謝の気持ちで「お布施」をしていたらそもそも音楽業界はこんな風にはなっていなかったのではないでしょうか。
そんな「善意で音楽業界が成り立つ」と考えられている世界ですが、それはなにもSpotifyが日本に進出してきたあとの状況に限ったことではなく、現状でもこの土壌は既に形成されつつあるわけです。YouTubeで無料で音楽を聞いている人が一体どれほどいるでしょう。そしてYouTubeで音楽を聞いた人のうちどれほどが、そのあとCDや有料DLに向かうでしょう。つまりそういうことです。(もちろん向かう人は向かいます)
特に中高生などお金のない層には顕著だと考えますが、「YouTubeで聴き放題の楽曲をあえて購入する人がどれほどいるか」ということを考えれば理解しやすいんじゃないでしょうか。ぼくはYouTubeの音質ではちょっと満足できないのでDL販売で買いますが、そういう人間しか買わないわけです。iPhoneにもYouTubeの動画をDLできるアプリもありますし。(それが犯罪かもしれないだとかという議論は、窃盗スレスレの動画サイトの違法アップロードで商品の便益を無料で受けているという時点で今するべきことではないと思っています)
そんな、限られた音楽好きしか音楽に金銭を支払わないという現状の中で、多くの人間を購入へと向かわせるための『手段』こそが『所有欲を刺激する特典付きのCD』であるわけです。
 
「初めにCDで発売して本当にほしがってる人にひと通り買わせて、その3ヶ月後にSpotifyで公開」とかは今後もしSpotifyが入ってきたら全くもって日本がやりそうなことだなあと思います。まあそれをSpotifyが許すかは知りませんが。少なくとも「YouTube音楽リスナー」が圧倒的に多い今の現状では、違法アップロード/ダウンロードを規制する方向性より実現可能性という面で現実味があると思います。
あとはYouTubeがリピート再生に対応する代わりに定期的に広告が入ってレコード会社に収益が入るという「事実上のSpotify化」とかもありえない話ではないのかもしれませんね。
 


05 日本の音楽ビジネスはこれでいいのか

Spotifyのビジネスモデルが日本の音楽業界の収益モデルにマッチしないから参入しないというのであれば全くもってそれで構わないと思います。しかし、ここで一つ問題になってくるのは、そもそも「その自分たちがやってきている収益モデルは持続可能なのか」という点です。まあひとりが数十万かけたなんていう話もちょいちょい出てきますが、そのようなビジネスが長続きしていくんだろうかという点は疑問ではあります。
そしてこれに関しては、たまたま目にした論文があったんですが、肝心のビジネスの持続可能性に関する言及がちょっとアレだったのでやめておきます。
ただ、この現状を鑑みるに、音楽というものの楽しみ方自体が変わってきているんだろうなあという感じはします。純粋に音楽だけを買って『音を楽しむ』というより、1ファンとしてグッズを集めたりしてアーティストを応援する、その手段としての円盤なんじゃないでしょうかね。音楽産業だけで見ると今にも疲弊しそうで持続可能性なんて微塵も感じられないんですが、エンターテイメント業界全体で見れば盛り上がっているというのもあながち間違っていないように思います。
 


06 結局Spotifyは入ってくるのか

ここまでの話をまとめると、Spotifyが入る余地はないようにさえ感じられます。
Spotifyは「好きな音楽を聞き放題」という性質上、収録楽曲が部分的ではとても満足できないサービスなんじゃないでしょうか。というのも、たとえば20代のぼくらが中学の頃に流行った音楽をふと聞き直したくなったりとか、最近すっかり名前を聞かなくなったアーティストのアルバムをもう一度聞きたくなったりとか、そういう時にこそ真価を発揮できるとぼくは信じているのです。音楽の巨大な図書館みたいな、そういうインフラとして機能してほしいですし、Spotifyのウェブサイトを読んでいるとそういうように機能したがっているように感じます。
そういう意味では、SONYのMusic Unlimitedのように大手が納得しないままに日本で正式にサービスが開始されるようなことが起きるとはとても思えません。なので、まあ、もうちょっと待ちなんじゃないですかね。
 
本音を言うと月額$9.99とかけちくさいこと言わなくていいですし$30ぐらい払うので早く始めてほしいところです。それか1テラのiPodが出るかですかね。

一通り書いてからで大変アレなんですけど、Spotify JapanのFacebookページの投稿がこちらです。
まあ現地法人まで作ってる訳ですから参入しない方がおかしいんでしょうが、大変な道のりだと思いますし、この2013年12月の投稿を最後に更新が途絶えてるのもなかなかアレですね。

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Comment

  1. […] 分析の内容自体は結構数理的なので詳しくは省いて、分析結果だけを簡単に紹介する形にします。   1 DRMがある程度面倒で複雑なシステムへと高度化すると、それまで合法的に購買していたユーザの一部がDRMのついていない違法DLへと移行する   違法DLを防ぐためのDRMが結果的にこういう事態を招くんだとしたら、それはなかなかのパラドックスで皮肉ですね。DRMが面倒になっても善良ユーザは苦しみながらも我慢して使用し続けていたけれども、あまりにもメチャクチャやるようになったらついに愛想が尽きて逃げていってしまう、そんな感じでしょうか。   2 違法DLは単純な「DRMが面倒だから」などの理由だけで起きているわけではなく、低価格(というかタダ)での利用に対して単純にベネフィットを感じて利用する場合も多い   まあこれに関しては普通のことといいますか、読み手にもスムーズに受け入れられる結果なんじゃないかと思います。そもそもが、市場原理における需要と供給の話でいうと、「0円で聴ける」からこそ違法DLやらYouTubeやらで聴いているけど、いざそれが1曲150円になったら「いや別にお金出してまで買おうと思わないし…」という人が出てくるのは、(あくまで市場原理としては)自然なことです。 そういった意味で、違法ダウンロードの回数は確かに被害総額にはなり得るでしょうが、仮にあらゆる違法DLやストリーミングが全て不可能になった世界があったとしても、被害額全てが売上として企業に入るというのは全くの誤認だと思います。正直なところ、普通に売ってる商品に対して、「(違法な手段を利用すれば)タダで手に入るから聴いてるだけであって有料ならいらない」なんてのは純粋に窃盗だと思いますけどね。   3 DRMがあるかないかに関わらず、とにかく違法DLは存在する。問題はDRMが実際に違法DLの減少に貢献できているかどうか   論文中の分析では、ダウンロード販売におけるDRMの撤廃が引き起こす影響として、一点「違法コピーの技術的な困難がなくなる」ことを指摘しています。まあ当たり前ですね。ファイルのコピペとかファイル自体そのままのアップロードでコピーができちゃうわけですからね。しかし本当に面白いのはそのあとの話で、DRMの撤廃が引き起こす影響として、仮に違法コピーが容易になったとしても、それでもなお「違法ダウンロードが減少」するとしています。これに関してはにわかには信じがたいものがありますね。(ただちょっとこの辺りは数理的な仮定が結構強いので計算みると「ほんとかよ…」という部分もあります) しかし、強調すべき点としては「DRMがついている場合には、正規品はコピー品に比べて自由度が低いことから商品としての魅力が減少する」、その一方で、「DRMが撤廃されると、正規品とコピー品の違いが完全に価格だけとなるため、商品としての魅力は高まる。(その代わり、人々は価格設定に敏感になる)」という部分ですね。これまでP2Pをはじめとした違法ダウンロード系のファイルって音質やらウィルスやら色々と問題はあったんですが、なんかもう最近はもはやそういうののない純粋な「音楽をみんなで楽しむためにめっちゃ音質のいい自慢のアルバムをこっそり交換し合うコミュニティ」みたいなのとかもあるみたいですね。人づての噂なのでよく知りませんが…。   論文中では、DRMの理想的な形として「正規ユーザに負担がかからず、違法DLユーザにうまいこと負担がいくシステム」について言及していますが、そんなもん存在してたらとっくの昔に実装してんだろと思ってしまいます。しかしながら、この分析によると「たとえ正規ユーザに負担がかからず〜という理想的なDRMが存在し得たとしても、それでもなおDRMは撤廃したほうがいい」というおいおいマジかよという計算結果が出ています。   でも実はこれ、考えてみればその通りで、(数式が流し読みなのでぼくの推測も入っていますが、)DRMで正規ユーザに負担がかからないということは、正規ユーザにとってそれはもはやDRMを撤廃したのと同じことです。(正規で買えば負担がかからない=正規で購入すれば自由に他のデバイスでも再生できるし自由にCDに焼いて楽しむこともできる=DRMがついてないようなもん) ということは上で書いた通り、正規ユーザにとってはDRM付きの正規品もコピー品も、差が価格だけになるわけです。つまり消費者は価格設定に今までより敏感になります。しかし販売側はといえば、違法ユーザのみに負担がかかるような素晴らしいDRMを開発するコストが利益を圧迫する形となり、下手に価格を下げることができなくなる。その結果として正規ユーザまでもが、タダで手に入る違法DLに流出してしまう可能性が考えられるという流れだと思います。   ちゃんとした数理的な計算過程と論理展開は恐らくこの論文のミソのところなので紹介しません。   また、文中に「DRMが撤廃された瞬間にダウンロード販売のメリットが完全にCD販売を凌駕する」という記述があるんですが、これに関しては日本では全く当てはまらないと思います。その辺の話はSpotifyに関して書いたSpotifyのジャパン・パッシングに見る日本の音楽業界の話 あたりに絡んでくる話だと思いますが、一文で要約すると「ほとんどの場合、 日本の音楽産業は今や所有欲と強く結びついてるから単純に低価格で音楽が手に入るだけでは意味がない」ということです。というか、逆にいうと、その「所有欲」を刺激するコレクションとしての音楽であるからこそ、現状の日本の音楽産業は違法ダウンロードに潰されずになんとか産業として維持できているという可能性も考えられると思います。   本文中に違法ダウンロードを行う際の負担として「検索コスト」という言葉が出てくるのが個人的には結構気になります。今なんてGoogleの検索バーにアーティスト名と曲名いれただけで後ろに「 mp3」だの「rar」だのがサジェストされるぐらいの世界なのに、検索コストってそこまで負担になるもんなのかな、という感じはしてしまいます。 実際のところiTMSでアルバム探すのにも検索は結構面倒ですからね。あそこ検索しづらいし。   この論文では分析にあたっての仮定として「違法ダウンロードを行う際には罪の意識を感じる」というのがあるんですが、正直なところ、まともに買った人が「マジかよ!?買ったの!?」みたいに言われる世の中なので。もはやそれもどうかなあという感じもあります。   ということで、ここまでで論文を半分読んだ感想やら諸々です。半ページ読むごとに書き進めています。 思いのほか長い論文だったので、前後半にわけるか、次回がもしあれば結論編にしたいと思います。   […]

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