落合陽一『デジタルネイチャー』書評(途中まで)

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俺はここしばらく、新井紀子先生の著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』と落合陽一先生の著書『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』を交互に読むことを周囲に激しく勧めている。これは、俺がどちらの本にも完全に同意しているわけではないことと、あとは単純に機械学習やディープラーニングの内部構造の理解が及んでない人が『デジタルネイチャー』を表層だけ追ってもあんまり大した理解は得られない気がしているからだ。今の時代、計算資源を活用する側になるだけならデジタルネイチャーの世界では誰にだってできるしこの本を読む必要もない。

俺ら周りはここ数年ずっと深層学習のそのブラックボックス性を危惧してきた。特に社会科学分野としての人間行動のモデリングへの深層学習の応用にあたり、内部の構造や関係を理解せずに現象を再現することに人間行動を理解する上での大した示唆が見られるのかずっと疑問だったのだ。…まあ、ずっと疑問ではあったが、俺は面白そうなので敬遠せずにとりあえず思いつくだけ色んなことはやってきたけど。今も新しいモデルを組んでるその休憩にこれ書いてるわけで。

しかし落合陽一の考え方には食らった。落合陽一はこのブラックボックスとしての統計的機械学習全般をEnd to End、つまりは事象と事象を直接的に変換する機械だと考えたのだ。これまでは変換に必要な内部的な構造を人間が解析的に作り上げなければいけなかったあらゆる事象の関係性の記述を、機械学習が一手に引き受ける可能性について言及している。もちろんそれは必ずしも”正しい”構造/関係性を捉えているわけではないことも(俺自身の経験上)多々あるのだが、インとアウトという結果(=事象)の整合性が取れていることのみをもってEnd to Endを規定するのであれば確かにそこには問題がない。これをもって事象の変換器という概念を作り出せるのはすごい。

現に深層学習を用いることによって、たとえばこれまで全く考えられなかったような将棋の戦略が示されるなど、人間による知見の創出にあたっての補完的な役割を計算資源が担うという構造は既に現れてきている。人間が考えるメカニズムでは解釈できない戦略を示すことができるのは、”希少な資源”としてのごく一部のぶっ飛んだ天才か、そうでなければ”それよりずっとありふれた資源”としての計算資源、すなわち機械学習の他ならない利点だ。
それを我々の仕事に活かすことを考えると、たとえばデータ解析を行うにあたっては必ずといっていいほど解析者の思考が影響を及ぼし、仮説を立てるにも主観が邪魔をして全てを想定することはできない。そういったときに機械学習を通し、そしてその学習済みモデルの皮を引き剥がすことで、内部に記述された構造、それも人間が想定できていなかった関係性を予め網羅的に把握できる可能性がある。その構造のどこに”意味/価値”を見出すかはそれを読む人間次第だ。それはまさに人間の知の外側にいる計算資源が人間に補助的な示唆を与える構造に他ならない。

事象の直接的な変換というのは、まあ色々考えられるんだけど、思いつきで適当に一個だけ例を挙げる。
これからさらに登場するあらゆるスマートデバイスが特定個人の一生をあらゆる形(写真や動画や音声といったメディアファイルや、あるいは位置情報やスマホの操作ログといった行動ログデータ、さらにはSNSの発信ログや家計簿データや公的統計など)で記録するようになった時、それらビッグデータを統合的に用いることによって、たとえばどんな作家の手も借りずに「この世のどこにも存在しないのにありふれて存在しそうな誰か」の生活とか、恋愛とか、そういったものを簡単に書き上げてVRで追体験するようなことが、勝手にできるようになるんだろうと思う。まあ現状の機械学習の技術を俯瞰する限り当分の間は無理だけど。俺も去年のJSAI2017で扱ったけど、MultimodalなDeep Boltzmann Machinesなんかはある意味でその走りだったんじゃないかな。

こんだけ書いといて本の後半でそれまでの内容が全否定されたりしたら最高に面白いんだけどね。だってこの話を実現するには現状の機械学習ではだいぶ物足りないからね。

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